作詞家として頂点に立った山口洋子は、40代を迎えると小説の世界へと果敢に打って出た。1985年、自らの幼少期や熱情を描いた『演歌の竜』『居酒屋兆治』などの話題作を精力的に発表する中、ついに『演歌の竜』『老いたる父と』で直木三十五賞(第93回)を受賞する快挙を成し遂げる。
出版社の大手・文藝春秋を中心に発表された作品群は、作詞で培われた無駄を削ぎ落とした文章のリズムと、人間の哀歓を抉り出す圧倒的なリアリティで文壇の度肝を抜いた。銀座のママ、ヒット作詞家、そして直木賞作家という前人未到の肩書を揃えた彼女の情熱は、既存の枠組みにとらわれない自由な表現者の姿そのものだった。