2000年代初頭、国際協力のもとで推し進められたヒトゲノム計画は、人間という生物の全塩基配列を解読する壮大な挑戦だった。アメリカ国立衛生研究所(NIH)を中心とする国際チームが、30億塩基対におよぶDNAの全貌を明らかにしようと凌ぎを削った歴史は語り草である。
当時は1人のゲノムを解読するのに10年以上の歳月と巨額の予算を要したが、2026年現在の次世代シーケンシング技術は、ほんの数時間、数万円程度のコストで全ゲノム解析を可能にした。この驚異的な高速化は学術論文データベースPubMedに登録される研究数を爆発的に増加させ、日夜新しい病因遺伝子や治療標的が発見されている。
もはや「DNAを読む」段階は過ぎ去り、染色体の立体的な高次構造が遺伝子の発現をどう制御しているかという、エピジェネティクスの解明へと研究の軸足は移っている。