2008年10月5日、緒形拳さんは71歳でこの世を去りました。あまりにも急な訃報は列島に大きな衝撃を与えましたが、その死因の真相は肝細胞がんによる肝破裂でした。
実は緒形さんは、亡くなる約5年前から慢性肝炎を患い、やがて肝硬変、そして肝臓がんへと進行していました。しかし、この事実を知らされていたのはごく一部の家族と主治医のみ。共演者やドラマの制作スタッフ、親しい友人に対しても病名を一切明かさず、過酷な投薬や治療を受けながら何事もないかのように撮影現場へ通い続けていたのです。
病を隠し抜いた理由は、何よりも「役者・緒形拳」としてのプロフェッショナリズムにありました。病状が公になれば、共演者が余計な気を遣い、スタッフが演技の要求を躊躇してしまう。作品の質に少しでも妥協が生じることを、彼は誰よりも恐れたのです。
亡くなるわずか数日前となる2008年9月30日、緒形さんは遺作となるフジテレビ系連続ドラマ『風のガーデン』の制作発表会見に登壇。顔色の悪さを隠すように笑顔を見せ、共演者の中井貴一さんらとユーモアを交えて語り合っていました。その直後の10月4日に自宅で容態が急変し、緊急手術が行われたものの、翌5日夜に帰らぬ人となりました。最期の瞬間まで「演じること」に命を捧げた、壮絶な幕引きでした。