インターネット上で頻繁に見られる「世界で唯一、日本国外で日本語を公用語に定めている国」という言説には、法的な事実と運用の実態との間に大きな乖離が存在します。この誤解を解く鍵は、パラオ共和国の国家構造と地方自治の仕組みにあります。
パラオ共和国憲法において、国レベルでの公用語として定められているのは「パラオ語」と「英語」の2言語です。国全体の公用語に日本語が含まれているわけではありません。では、なぜ日本語公用語説がこれほど広く流布したのか。その理由は、国内16州のうち最南端に位置する「アンガウル州」の州憲法にあります。
1982年に制定されたアンガウル州憲法第12条第1項には、州の公用語として「パラオ語」「英語」と並び、明確に「日本語」が記載されています。しかし、現地関係者や歴史学者の調査によると、これは過去にリン鉱石採掘で多くの日本人労働者が滞在した歴史への敬意や象徴的配慮として盛り込まれた側面が強く、法廷や行政文書で日本語が義務付けられているわけではありません。
2026年時点の人口動態を見ても、アンガウル州を含め、日常的に日本語のみで高度な意思疎通が可能なパラオの日本語話者(現在)は、戦前教育を受けたごくわずかな高齢世代に限られています。「公用語=街中で住民全員が日本語を話す」という認識は明確な誤解であると理解しておく必要があります。