夏八木勲さんの死因はすい臓がんでした。体調の異変を感じて精密検査を受けた2012年秋に病が判明した段階で、すでに病状は深刻な進行を見せていました。しかし、夏八木さんは周囲に過度な心配をかけまいと、病気の事実を広く公表することなく、決まっていた撮影スケジュールをすべてやり切る道を選びました。
その執念の現場のひとつが、是枝裕和監督によるカンヌ国際映画祭審査員賞受賞作『そして父になる』です。同作で夏八木さんは、福山雅治さん演じる主人公の父親役を務めました。撮影当時、すでに過酷な体調不良や痛みを抱えていたはずであるにもかかわらず、現場では一切の弱音を吐かず、深みのある円熟した父親像を見事に演じ切りました。
『終戦のエンペラー』『脳男』『永遠の0』『武士の献立』など、最晩年に出演した作品群はどれも遺作と呼ぶにふさわしい凄絶な輝きを放っています。「役者は倒れるまで演じ続けるもの」という信念をそのまま体現したその姿は、監督や共演者たちに強烈な衝撃と敬意を刻み込みました。