今でこそ国民的人気曲として定着している『まちぶせ』ですが、当時の石川ひとみを取り巻く芸能活動の現場は、まさに「背水の陣」と呼ぶにふさわしい極限状態でした。
1978年にシングル『右向け右』でデビューした石川ひとみは、愛らしいルックスと確かな歌唱力で注目され、NHK人形劇『プリンプリン物語』の主役声優に抜擢されるなどタレントとしての知名度は抜群でした。しかし本業の歌手活動においては、デビューから10枚連続でシングルがオリコン上位に食い込めず、レコード会社や事務所からは「次のシングルで結果が出なければ契約終了(引退)」という宣告を突きつけられていたのです。
「これが私の最後の歌になるかもしれない」という覚悟で挑んだ『まちぶせ』は、リリース直後から有線放送やラジオのリクエスト番組を中心に猛烈な勢いで火がつきました。チャートを徐々に駆け上がり、オリコン最高位2位を記録、累計売上40万枚を超えるメガヒットを達成します。
大ヒットを牽引したのは、彼女の圧倒的な歌唱力でした。オーディション番組『スター誕生!』で培われたピッチの正確さ、マイク乗り抜群の澄んだ高音域、そして歌詞の一言ひとことに感情を宿らせる繊細なブレスコントロールは、当時のアイドル歌謡の枠を完全に超越していました。
その結果、同年の1981年末に放送された『第32回NHK紅白歌合戦』に悲願の初出場を果たします。ステージ上で感極まり涙を浮かべながらも、一音も外さずに歌い切ったその圧巻のパフォーマンスは、現在も歌謡史に残る伝説的な名場面として語り継がれています。