なぜリリースから8年もの歳月が経過したカバー曲が、突如として若年層の熱狂を生み出したのか。その導火線となったのは、2018年初頭からTikTok上で急速に拡散した「め組のひと」の倍速音源と、それに合わせたリズミカルな手振りダンスでした。
原曲のテンポ(BPM約115)から大幅にピッチと速度を上げた通称「倍速バージョン」は、曲のハイライトであるサビ部分の疾走感を極限まで高めました。親指と人差し指でピースサインを作り、リズムに合わせて目の横で反転させてから「めッ!」でウインクや決めポーズを作る振り付けは、スマートフォンのインカメラでバストアップを撮影する自撮り文化と完璧に合致していたのです。
当時の利用実態を分析すると、投稿された関連動画の総再生数は瞬く間に数億回規模へ到達。10代を中心としたユーザーにとって、この振り付けは「最も顔が盛れるダンス」として認知され、女子中高生から人気インフルエンサー、さらには部活動の仲間同士での投稿へと瞬く間に連鎖しました。
特筆すべきは、ブームに対する権利元・エイベックスと倖田來未自身の柔軟な初動対応です。ネット上の自然発生的なバズを締め出すのではなく、倖田來未本人が公式TikTokアカウントを開設してキレのあるダンス動画を投稿。さらに未公開だった公式ミュージックビデオ(MV)のフルサイズをYouTubeへ急遽配信し、主要ストリーミングサービスで特集を組むなど、UGC(ユーザー生成コンテンツ)の熱量を即座にオフィシャルな再評価へと接続させました。その結果、LINE MUSICをはじめとする各種配信チャートで軒並みデイリー1位を獲得するという、過去に前例のない旧譜の再浮上を成し遂げたのです。