千住という土地を語るうえで、江戸の俳聖・松尾芭蕉の存在を外すことはできない。元禄二年(1689年)の春、芭蕉は門弟の曾良を伴い、深川から舟で隅田川を遡ってこの地に降り立った。『奥の細道』の冒頭、「千じゅと云所にて船をあがれば、前途三千里のおもひ胸にふさがりて、白川の関見むとおもひたつ事…」と記された旅立ちの舞台こそが、日光街道 千住宿の第一歩だった。
施設内には、宿場町として賑わった当時の古地図や町並みの解説パネルがずらりと並ぶ。スタッフが語る歴史の小話はどれも生々しく、教科書の記述を鮮やかな立体劇へと変えてしまう。矢立初めの句「行く春や鳥啼き魚の目は泪」が詠まれた空気感を肌で感じながら歩く準備を整えるには、これ以上の出発地点はない。