主人公・風越信吾のモデルとなった実在の人物こそ、後に「ミスター通産省」と畏怖された元事務次官・佐橋滋である。その生き様は、伝説と呼ぶにふさわしい。
佐橋は歯に衣着せぬ物言いで知られ、時の大臣や政界の実力者に対しても一切怯まなかった。料亭での政治工作を毛嫌いし、大臣室の机を叩いて自らの政策を主張したという逸話は数知れない。彼が命を削って成立を目指したのが「特定産業振興臨時措置法案(特振法)」だった。自動車や特殊鋼などの産業を再編・集約し、外資に対抗できる巨大企業群を官主導で作ろうとしたのだ。
結果として特振法は廃案となり、佐橋の構想は挫折する。本田技研工業の創業者・本田宗一郎が「官僚の勝手な統制に自動車産業の未来を委ねられてたまるか」と猛反発したエピソードは余りにも有名だ。しかし、佐橋が抱いた「産業の城壁を築く」という強烈な熱情と国家への献身は、敵対した企業人たちからも深く記憶されることとなった。