イカの腹と背中を正しく見分けることが重要な理由は、単なる知識の問題ではなく仕上がりの味と見た目を劇的に変えるために他なりません。イカの胴体内には、肝臓にあたる大きなワタ(中腸腺)とともに、墨が詰まった繊細な「墨袋」が腹側にぴったりと沿うように張り付いています。
背中側から不用意に包丁を入れると、軟骨に刃先が当たって滑り、その勢いで裏側にある墨袋を刃先で突き刺してしまう事故が多発します。一度墨袋が破れると、濃厚な黒い墨が身の内側に瞬時に広がり、水洗いを繰り返すうちにイカ本来の甘みや旨味成分が流れ出てしまいます。
また、イカの塩辛やワタ焼きに使用する新鮮な肝(ゴロ)も、傷がつくと苦味が出たり破れて使い物にならなくなります。腹側を正確に把握して作業を進めることこそが、失敗しないイカ料理の絶対条件です。