ネット上には「喉の痛みと熱には手持ちの抗生物質を飲めばすぐ治る」という言説が散見されますが、これは医学的に極めて危険な誤解です。風邪やインフルエンザ、新型コロナウイルスに対して抗菌薬(抗生物質)は一切効果を発揮しません。それどころか、腸内細菌叢を乱して下痢を引き起こしたり、耐性菌を発生させたりするデメリットしかありません。抗菌薬が有効なのは、溶連菌感染症や細菌性扁桃炎など、細菌感染が確定しているケースに限られます。
もう一つの重大な盲点が、高熱と激しい喉の痛みが続く理由として潜む合併症です。扁桃炎の炎症が扁桃の外側組織へ波及すると、「扁桃周囲膿瘍(へんとうしゅういのうよう)」という緊急疾患に進行します。喉の片側が強烈に腫れ上がり、膿が溜まることで口が開かなくなり(開口障害)、唾液すら飲み込めなくなって脱水を起こします。さらに進行すれば喉頭浮腫による気道閉塞を引き起こし、窒息の危機に直結するため、入院と即時の切開排膿が必要です。
また、若年層で高熱と喉の激痛、リンパ節の著しい腫れが1週間以上続く場合、エプスタイン・バール・ウイルス(EBV)による「伝染性単核球症」の疑いが生じます。この疾患では肝機能障害や脾臓の腫大を伴うため、一般的な抗生物質(特にペニシリン系)を投与すると全身に重篤な薬疹が出現するという罠が存在します。「ただの喉風邪が長引いているだけ」という自己判断は、取り返しのつかない事態を招きかねません。