「なぜ時計は100分で1時間にならないのか」という疑問の答えを探ると、今から5000年以上前、チグリス・ユーフラテス川のほとりで栄えた古代メソポタミア文明の起源に行き着きます。当時この地に入植したシュメール人は、極めて高度な都市国家を築き上げ、農耕や交易、天体観測を支える基盤として世界最古の記数法を生み出しました。
古代の粘土板に刻まれた楔形文字を解読した数学史の学術資料によると、シュメール人は太陽や月の運行を精密に観測する過程で、天球の運行サイクルを数式化していきました。これがのちにバビロニア数学の歴史へと継承され、現代の時間の単位へと直結していきます。
では、なぜ彼らは60という数を選んだのでしょうか。そこには12進法との関係と経緯が深く関わっています。人間が道具を使わずに数を数える際、片手の親指を使って他の4本の指にある「関節(各3個×4本=12個)」を数える習慣がありました。この身体感覚に基づく「12」という単位と、もう片方の手の指「5本」を掛け合わせることで「12×5=60」というスケールが自然発生的に定着したという説が有力です。
さらに、シュメール人の天文学において、月が満ち欠けを繰り返す周期(太陰暦)はおよそ30日であり、1年は12カ月、つまり「30×12=約360日」で太陽を一周することが知られていました。この360という天文学的数値を6等分した基礎単位が「60」であり、円周の角度360度と60進法が結びついた根源となっています。彼らにとって60は、天体の秩序と人間の身体尺度が美しく交差する神聖かつ究極の実用数でした。