ゲレンデマジックを成立させる最大の要因は、人間の認知特性を利用した「顔の補正効果」にある。心理学において、人は顔の一部が隠されていると、隠れた部分を自分の都合の良いように理想化して脳内補完する習性を持つことが知られている。厚手のウエア、ニット帽、そして顔の半分を覆う大きなゴーグル。これらが組み合わさることで、誰でも「映画の主人公」のような雰囲気を纏うことができるのだ。
さらに見逃せないのが、生理的な胸の高鳴りである。急斜面を滑り降りる緊張感、転倒への恐怖、そして爽快感によって心拍数が急上昇する。これはいわゆる「吊り橋効果」の典型例だ。脳はこの興奮や動悸の原因が「危険な滑走」によるものなのか、それとも「隣にいる相手」へのときめきによるものなのかを判別できず、恋の始まりだと錯覚してしまう。
最後の一押しとなるのが、雪景色による強力な照明効果だ。白い雪原は巨大な天然レフ板として機能し、肌のくすみや影を消し去る。太陽光やナイター照明が反射する銀世界では、肌が圧倒的に美しく見え、瞳には自然なハイライトが入る。まさに天然の美肌フィルターが全自動でかかっている状態と言えるだろう。