祖父江が手がけた仕事の幅広さは驚異的だ。夏目漱石の『心』や『坊っちゃん』といったクラシック文学の装丁改訂では、明治・大正期の印刷の不完全さや活字の「にじみ」を現代技術で緻密に再現してみせた。一方で、漫画やサブカルチャー本においては、キャラクターの持つ熱量や狂気をそのまま装丁に爆発させている。
どの作品においても一貫しているのは、デザイナー自身の自己主張を消し去りながらも、本そのものに「人格」を与えるという矛盾した技法だ。著者の文章が持つ特有のノイズやリズムを誰よりも深く聞き取り、それを表紙という一枚の皮膚に翻訳している。