「からゆきさん(唐行きさん)」とは、幕末から明治・大正期にかけて、東アジアや東南アジア、さらにはシベリアやインド、アフリカ沿岸にまで渡り、売春に従事させられた日本人女性を指す通称である。元来は九州北部で「中国(唐)方面へ出稼ぎに行く人」を指す方言であったが、近代以降は海外へ出稼ぎに出た日本人娼婦の代名詞として定着した。
渡航者の多くは、長崎県の島原半島や熊本県の天草諸島といった特定の地域出身の若い女性や少女たちだった。当時の農漁村は耕作地に乏しく、度重なる凶作や小作料の重圧によって極限の貧困に直面していた。日清・日露戦争を経て近代国家への体裁を整えつつあった日本において、地方の農村部には激しい格差と困窮が取り残されていたのである。
家計を救うための「口減らし」や、前借金で縛られた家族を助ける手段として、年端もいかない娘たちが標的となった。親自身が泣く泣く手放すケースだけでなく、「海外の工場で良い仕事がある」「外国の仕立て屋で働けば仕送りができる」といった甘言に騙され、人身売買同然に売り飛ばされる事例が後を絶たなかった。