猫が人間の体を舐める際、どの部位を狙っているかによってその動機は大きく異なります。猫同士のコミュニケーション様式や本能的な嗅覚反応がダイレクトに反映されるため、部位ごとの文脈を正確に読み解く必要があります。
飼い主の手を舐めてくる心理として最も多いのは、撫でてほしい・ごはんが欲しいといった「要求行動」と「リラックス状態での親愛」です。手は飼い主から直接ごはんをもらい、撫でられる部位であるため、猫にとって最もポジティブな記憶と結びついています。さらに、人間の皮膚表面から分泌される飼い主の汗や塩分、皮脂のわずかなミネラル成分に反応して舐めているケースも臨床現場で多々確認されています。
一方で、顔を舐めてくる意味は、より親密な社会関係の構築にあります。猫同士が信頼し合う仲間同士で行う相互毛づくろいをアログルーミング(Allogrooming)と呼びますが、顔への舐め行動はまさにこれに該当します。自分の匂いを相手に擦り付け、同時に相手の匂いを取り込むことで「ひとつの群れ」としての安心感を得ようとしているのです。
また、髪の毛を舐めてくる行動には、毛並みを整えようとする母性本能や仲間意識に加え、シャンプーやヘアオイルに含まれる特定の香料・油分(ココナッツ油や植物性エキスなど)に対する嗅覚的な興味が関係しています。ただし、整髪料の誤飲は中毒リスクを伴うため注意深く見守らなければなりません。
なお、猫に舐められると痛みを覚えるのは、猫の舌がザラザラな理由である「糸状乳頭(しじょうにゅうとう)」という突起構造に起因します。表面に約300〜400本並ぶこの突起はケラチン質でできており、野生下で獲物の骨から肉をこそぎ落としたり、被毛のブラッシングや体温調節を行ったりするための高機能なブラシとして機能しています。