お茶の間に定着した「いらっしゃーい」というフレーズですが、その原型は1960年代後半から70年代にかけて若者の熱狂を呼んだ深夜ラジオ『MBSヤングタウン』などの生放送にありました。当時、新進気鋭の若手落語家・桂三枝としてラジオパーソナリティを務めていた文枝さんは、スタジオにゲストやリスナーを迎える際、深夜特有のハイテンションなノリで声を張り上げていました。
1971年に『新婚さんいらっしゃい!』がスタートした際、番組タイトルと自身のラジオでの決め台詞が自然と融合。一般参加の新婚カップルが極度の緊張状態でスタジオに入ってくるのを目にした文枝さんは、彼らの警戒心を一瞬で解くために、あの甲高い裏声に近いトーンで「いらっしゃぁ〜い!」と迎え入れるスタイルを確立させました。
同時にトレードマークとなった右手を斜め前に突き出す手のポーズにも、明確な理由があります。文枝さん本人の述懐によると、ただ口頭で歓迎するだけでなく、体全体で「ようこそ、こちらへどうぞ」と包み込むようなウェルカムの意思を示すために自然と手が前に出たのがきっかけでした。観客席とお茶の間、そして舞台上の素人ゲストの3者を一瞬で結びつけるコミュニケーション術として、あの唯一無二のフォームが完成したのです。