ビジネスの現場において、「左様でございますか」が「失礼」あるいは「冷たい印象」と受け止められる背景には、対人関係における心理的距離(バウンダリー)の急激な固定化が存在します。
顧客や取引先が何かしらの困りごとや感情を込めて話している場面を想像してください。相手が求めているのは「こちらの感情や状況に対する情緒的な理解と共感」です。ところが、そこで「左様でございますか」と機械的に返されると、会話のラリーは一瞬で事実確認のフェーズへ引き戻されます。心理学でいう「感情の脱落(ディタッチメント)」が起きるのです。
過剰に格式張った言葉遣いは、相手に対して「これ以上踏み込んでこないでほしい」という見えない壁を築きます。これが受取手に慇懃無礼な敬語として映る根本原因です。慇懃無礼とは、礼儀正しすぎてかえって無礼に感じられる態度を指します。丁寧すぎる言葉の鎧をまとうことで、相手の話を感情抜きで受け流しているような傲慢さ、あるいはマニュアルに縛られたロボットのような無機質さを醸し出してしまう構造がここにあります。