現生のトカゲ類の中で、海中に潜水して採餌を行う爬虫類はウミイグアナ(学名:Amblyrhynchus cristatus)ただ一種のみです。彼らが海に入る決断をした決定的な理由は、火山の噴火によって形成された初期の島々に、陸上動物を養う十分な植物が存在しなかったことにあります。不毛な黒い溶岩地帯に取り残された祖先種は、生き残りをかけて豊かなプランクトンが育む沿岸の海藻類へと食域を広げました。
主食とするのは、岩礁に密生する紅藻や緑藻などの海藻です。鋭く頑丈な鉤爪(かぎづめ)で激しい波に耐えながら海底の岩にしがみつき、平らにつぶれた吻部(口元)とカミソリのような3尖頭の歯を使って、岩肌から海藻をこそぎ落とすように捕食します。大型の成体雄になると水深15メートル以上まで潜水し、最長30分から1時間近く息を止めて海中にとどまることが現地の潜水調査で記録されています。
しかし、冷たいクロムウェル海流が流れ込むガラパゴスの海は、変温動物であるイグアナにとって体温低下という命の危機を意味します。海中では体温が10℃以上も急低下するため、心拍数を毎分約30回から数回程度まで落とす「徐脈(ブラディカルディア)」を起こして熱の放出を抑えます。そして採餌を終えて陸に上がると、太陽熱を効率よく吸収する黒い体色を活かし、真っ黒な溶岩の上で集団となって日光浴(バスキング)を行い、体温を活動限界の約35〜37℃まで回復させます。
海藻を海水ごと大量に摂取することで生じるのが、致死量に達しかねない体内塩分濃度の急上昇です。これを解決するために進化したのが、鼻腔の奥に位置する特殊な塩類腺(側鼻腺)です。血液中から高濃度の余分な塩分をろ過・濃縮し、勢いよく「くしゃみ」を放つことで鼻孔から体外へ噴射します。ガラパゴスの海岸でウミイグアナの頭頂部や顔面が白く粉を吹いたようになっているのは、このくしゃみによって結晶化した塩分が付着しているためです。