潮風が吹き抜ける沿岸部で、赤さびた鉄骨が剥き出しになったビルが静かに立ち尽くしている。コンクリートの中性化が進み、鉄骨の腐食が内部から建造物を蝕む。物理的な劣化は、自治体が当初想定していたスピードをはるかに超えて進んでいた。
国の支援施策を担ってきた復興庁の補助事業が節目を迎える中、維持管理にかかる膨大な費用はそのまま地方自治体の肩に重くのしかかる。耐震補強や外壁の落下防止工事、定期的な構造診断だけで、1施設あたり数千万円から年間億単位の資金が必要とされるケースも珍しくない。
保存の是非を巡る議論で今なお引き合いに出されるのが、岩手県陸前高田市の「奇跡の一本松」だ。枯死した後にモニュメントとして保存されたこの象徴的な存在には、巨額の保存処理費用と維持管理費が投じられた。当時から「巨費を投じて復元の形態をとるべきか、自然の理に任せるべきか」という議論が噴出したが、現在のコンクリート製遺構が直面している課題もまさに根を同じくしている。
税金で維持し続けることへの疑問、そして「見るだけで当時の恐怖が蘇る」という被災者の心情。一方で、解体してしまえば二度と元には戻せないという焦燥感。現場では今、維持コストの壁を前にして苦渋の決断を迫られている。