舞台は愛媛県松山市。秋祭りの狂気が街を包み込むなか、ただひたすらに通行人へ拳を振るい続ける男・芦原泰良(柳楽優弥)。彼には過去のトラウマも、社会への怨恨も、ましてや高尚な思想など何一つ存在しない。殴る、殴られる、ただそれだけの純粋な快楽と存在証明。真利子哲也監督が脚本に向かい合っていた当時、誰がこれほどまでに削ぎ落とされた暗黒の寓話を想像できただろうか。映画史において暴力は常に「動機」とともに描かれてきたが、本作はその文法を徹底的に破壊してみせた。
地方都市の退屈と、その裏側に蠢く底なしの虚無。まつりの太鼓の音が響き渡るなかで繰り広げられる地這いの暴力は、ロカルノ国際映画祭をはじめとする海外の映画祭でも激しい賛否両論を巻き起こした。美しい観光地の皮を剥ぎ取り、人間の生身の肉体がぶつかり合う音だけを抽出した演出は、10年が経過した今見返しても一切の古さを感じさせない。それどころか、記号化された感情表現ばかりが溢れる現在のエンタメ界に対する、強烈な皮肉として機能している。