坂本龍一の眼鏡を語る上で、避けて通れないモデルがある。フランスのアイウェアデザイナー、ジャック・デュラン氏が生み出した「PAQUES L506(パク L506)」だ。
このフレームは、1960年代のフレンチヴィンテージをルーツに持ちながら、現代的なミニマリズムを融合させた傑作として世界的評価を得ている。
フラットフロントが生み出す唯一無二の彫刻的造形
PAQUES L506の最大の特徴は、フレーム表面が平坦にカットされた「フラットフロント」という技法だ。通常の眼鏡フレームに見られる曲面を排し、あえて平らに削り落とすことで、影の出方に独特のグラデーションが生まれる。光の当たり方によって立体感が変化するその佇まいは、まるでひとつの彫刻作品だ。
さらに表面には、通常の研磨加工ではなくブラスト処理(砂を吹き付けてマットな質感にする技法)が施されている。光沢を抑えた落ち着いたテクスチャーは、坂本龍一の繊細で深い響きを持つ音楽と見事な共鳴を見せていた。
坂本龍一が選んだ「カラー002」とクリアアセテート
彼が特に愛用したのが、マットブラックの「カラー002(Matt Black)」である。黒でありながら光を反射せず、肌に溶け込みながらも強いフレームラインを描き出す。晩年のインタビューやドキュメンタリー映画、コンサートステージの多くでこのモデルを確認できる。
また、彼はクリア系やハバナ(べっ甲柄)のモデルも所有し、TPOや光の調和に合わせて掛け替えていた。一つのモデルを深く愛し、カラーバリエーションで表情を変える手法に、彼のこだわりが垣間見える。