陸上男子短距離の黄金期を象徴するのが、ジャマイカの怪鳥ウサイン・ボルトとガトリンの宿命の対決です。圧倒的なスター性と陽気なキャラクターで世界中から愛されたボルトに対し、過去のドーピング歴から国際舞台で激しいブーイングを浴び続けたガトリンは、メディアによって「善と悪」「正義とヒール」という構図で対比されました。
2012年ロンドン五輪、2013年モスクワ世界陸上、2015年北京世界陸上、2016年リオデジャネイロ五輪と、大舞台のたびにガトリンはボルトの前に立ちはだかりましたが、あと一歩及ばず銀メダルや銅メダルに甘んじる悔しさを味わいます。
そのドラマが最高のクライマックスを迎えたのが、2017年世界陸上ロンドン大会の男子100m決勝でした。この大会限りでの引退を表明していたボルトのラストランに世界中の注目が集まる中、ガトリンは8レーンから完璧なレースを展開。9秒92のタイムでボルト(9秒95で3位)を破り、実に12年ぶりとなる世界陸上金メダルを奪還しました。
スタジアム全体を包む割れんばかりの大ブーイングの中、ガトリンが取った行動はトラックに跪き、王者ボルトに対して深々と一礼(お辞儀)を捧げることでした。ボルトもガトリンを抱きしめ、「君はブーイングを受ける筋合いはない。ハードワークの結果だ」と称賛。悪役に徹しながらもライバルを誰よりもリスペクトし続けたガトリンの姿勢は、世界中の陸上ファンの心を激しく揺さぶりました。