ノイズキャンセリング(Active Noise Cancellation = ANC)が騒音を低減させるプロセスは、音を物理的に遮断するのではなく、「音に音をぶつけて消す」という音響工学の応用によって成り立っています。
音の正体は空気を伝わる「波(空気の振動)」です。波には山と谷が存在します。イヤホンの外側や内側に配置された超小型マイクが周囲の騒音を拾うと、内部のプロセッサーがその波形を瞬時に解析。その波と全く正反対の山と谷を持つ波、すなわち「逆位相(ぎゃくいそう)」の音波をデジタル処理で作り出し、スピーカーから同時に出力します。
プラス1とマイナス1を足すとゼロになるように、騒音の波と逆位相の波が空気中でぶつかり合うことで、互いの振動を打ち消し合い、結果として人間の鼓膜には「無音」に近い状態が届くことになります。この一連の計算と出力は、わずか数ミリ秒(1000分の数秒)という極めて高速なリアルタイム処理で行われています。
なお、ANCが得意とするのは、電車の走行音、飛行機のエンジン音、エアコンの稼働音といった低音域の周期的で予測しやすいノイズです。一方で、人の突然の叫び声や高音のアナウンスなど、突発的かつ不規則な高周波の音は解析と生成が追いつきにくく、完全に消し去るのが難しいという特性があります。