フランス語で「削る」を意味する「racler(ラクレ)」に由来するラクレット。その歴史は中世にまで遡り、厳しい冬を越す山岳地帯の知恵から生まれた。分類としては適度な水分と程よい硬さを併せ持つセミハードチーズに属し、加熱することで甘やかな香りと深みが一気に開花する。
日本人の多くがこのチーズに抱く原体験といえば、ヨハンナ・シュピリが描いた名作小説を原作とするアニメ『アルプスの少女ハイジ』ではないだろうか。おじいさんが暖炉の火にかざしてとろりと溶かし、黒パンにのせてハイジに手渡したあの黄金色のチーズこそ、まさにこの料理の原点だ。厳しい自然環境が生んだスイスの乳製品産業は、今や世界中の美食家を唸らせる食文化へと発展を遂げている。