赤飯を仕込む際、最初の分岐点となるのが「豆の選定」です。一般に広く流通している小豆(大納言など)と、古くから関東の祝い事で選ばれてきた「ささげ(大角豆)」には、明確な構造上の違いと歴史的背景が存在します。
小豆は皮が薄く香りが強い反面、煮汁の中で急激に膨張すると皮が縦に破れる「胴割れ(腹割れ)」を起こしやすい性質があります。これが武家社会において「切腹」を連想させ縁起が悪いと忌み嫌われたため、皮が厚く煮崩れしにくいささげが江戸・東京を中心に定着しました。現代の実用面においても、蒸し器で2回蒸す工程に耐えうるのは皮のしっかりとしたささげですが、小豆でも火加減を弱火に保ち、渋切りを丁寧に行えば十分に美味しく仕上がります。
また、赤飯の仕上がりを左右する鮮やかな小豆色の色付けには、煮汁の扱い方にプロ秘伝のコツがあります。豆を煮た後の煮汁を放置するのではなく、お玉ですくい上げて高い位置から空気に触れさせるように何度も落とす「空気酸化(エアレーション)」を行うことで、アントシアニン色素が鮮やかに発色します。十分に冷ましたこの色水を、しっかり水切りしたもち米に吸わせることで、芯までムラなく自然な赤紅色に染め上げることができます。