InstagramやX(旧Twitter)をはじめとするソーシャルメディア上で、「いとおかし」という古語がこれほどまでにバズワード化している背景には、単なるレトロブームにとどまらない深い構造的変化が存在します。観光庁や京都市観光協会の動向レポートでも指摘されている通り、近年の旅のトレンドは「名所を巡るスタンプラリー型の消費」から「その土地の文脈や情緒を追体験するイマーシブ(没入型)な旅」へと急速にシフトしました。
特に注目すべきは、JR東海の「いとおかし」キャンペーンによる綿密なブランディング戦略です。かつての「そうだ 京都、行こう。」が提示した圧倒的な風景美の提示から一歩踏み込み、平安文学の視点を現代の日常に重ね合わせる仕掛けを展開しました。日常の些細な美しさに気づく心のゆとりを取り戻したい現代人にとって、「いとおかし」というフィルターを通して眺める古都の情景は、極めて新鮮で贅沢な体験として響いています。
さらに、大河ドラマなどを契機に定着した平安文化への関心の高まりも追い風となっています。写真1枚のインパクトを競う表層的な「映え」から、背景にある歴史や物語を伴った「文脈のある映え」を求めるユーザー心理が、古都の奥深いディテールを再発見する原動力となっています。