主人公・本田透との出会いは、間違いなく由希の凍てついた世界を溶かす決定打となった。物語の序盤、読者の多くは二人が恋仲へと発展していく王道の少女漫画的展開を予想したはずだ。しかし、高屋奈月が描いた真実は、はるかに生々しく、痛切だった。
由希が透に求めていたのは、恋愛感情ではなく「無償の母性」だった。誰からも無条件に肯定されたことのなかった彼にとって、透の温かな眼差しは、かつて母親から得られなかった絶対的な承認そのものだったのだ。異性としての惹かれ合いではなく、母親を求める子どものような自らの甘えに気づいたとき、由希は激しい自己嫌悪と羞恥に襲われる。だが、そのみっともない本音を自ら認め、言葉にして透と向き合えたことこそが、彼の精神的自立における最大の分水嶺となった。