ネット上の歌唱力議論で最も陥りがちな誤解が、「高い声が出る歌手=歌が上手い」という短絡的な高音信仰です。動画サイトの切り抜き動画などで「hihiA(超高音)が出たから凄い」といった評価が散見されますが、プロの声楽家やボイストレーナーの見解は全く異なります。
実際には、超高音を張り上げる技術よりも、「中低音域で声がスカスカにならず、豊かな倍音を鳴らし続けられるか」、そして「ピアニッシモ(非常に弱い音)で正確なピッチと情感をキープできるか」のほうが、声帯の筋肉コントロールにおいて遥かに難易度が高いとされています。
また、オートチューン(自動ピッチ補正)が日常化した現代の録音音源では、機械的に音程をジャストに揃えることが容易になりました。その結果、音程は合っているものの「声のグラデーション(音色の変化)」や「言葉の抑揚」が失われた無機質なボーカルが溢れることになりました。プロが玉置浩二やMISIA、小田和正らを高く評価するのは、デジタル処理では絶対に再現できない「揺らぎの中にある正確さ」と「声帯の微細な圧力変化」を自らの身体一つで生み出しているからです。