物語の根幹を揺るがす最大の仕掛けは、ヒロイン・秋好寿乃(杉咲花)が「この世界から消えてしまった」という主人公・田端楓(吉沢亮)の語りです。観客や読者は当初、秋好が不慮の事故や自死によって命を落としたものと誘導されます。しかし、物語中盤で明かされる現実はまったく異なります。秋好は現在も元気に生きており、大学生活を謳歌していたのです。
楓が独白していた「秋好の死」とは、彼が勝手に神格化していた「純粋で社会に迎合しない秋好寿乃」という概念の消滅に過ぎませんでした。ふたりが大学1年生の春に「世界を良くする」「誰もが夢を語れる居場所を作る」という理想を掲げて立ち上げた秘密結社サークル「モアイ」は、学年が進むにつれて肥大化。OBの天野(柄本佑)らが関与したことで、大手企業への就職斡旋やインカレ飲み会が主目的の「俗悪な就活・人脈サークル」へと変質していきました。
秋好はサークルの成長と変化を受け入れ、自らも髪を染め、現実的なコミュニケーション能力を身につけて周囲と協調する大人の階段を登っていました。しかし、人に不用意に近づかないことを美徳としていた楓にとって、その変化は「純粋だった秋好が奪われ、裏切られた」という病的な執着と憎悪へと反転します。楓は秋好の理想を取り戻すという名目を掲げ、大学院生の前川(岡山天音)や後輩の董介(清水尋也)、不登校の少女・西山(森七菜)を巻き込みながら、モアイの内部不正や就活裏コネ疑惑をネット上に告発・拡散する卑劣な復讐劇へと突き進みます。
炎上工作は成功し、モアイは社会的制裁を受けて活動休止・実質的な崩壊へと追い込まれました。しかし、告発の主犯が自分であることを秋好に突きつけたクライマックスで、楓は残酷な現実に直面します。秋好はサークルを変質させた黒幕などではなく、純粋な理想を抱いたまま、不器用ながらもサークルを守ろうと奔走していただけでした。「大切なものを壊したのはサークルの変化ではなく、楓自身の歪んだエゴと悪意だった」という事実が白日の下に晒され、楓は自らが最も軽蔑していた醜怪な加害者であったことを思い知らされます。