長年続いた「降板説」に最も痛快な形で終止符を打ったのが、テレビ東京開局60周年特別企画として制作された『劇映画 孤独のグルメ』の存在です。本作において松重豊は、主演にとどまらず自ら監督・脚本を担当するという異例の挑戦に踏み切りました。
日本国内のみならずフランス・パリにまでロケ地を広げたこの劇場版プロジェクトは、原作者の久住昌之や制作陣との綿密な対話から生まれました。松重豊は当時のインタビューや公式コメントの中で、「ただ座って出されたものを食べるだけの立場から、なぜこの男が飯を食べるのか、この作品が社会に何を提示できるのかを自分で責任を持って描きたかった」という趣旨を明かしています。
長年演じ続けてきたキャラクターに対し、受動的に使われる俳優で終わるのではなく、能動的なクリエイターとして向き合い直すことで、マンネリ化を防ぎ、自らのモチベーションを再燃させました。結果としてこの監督作品は、映画としての高い完成度とともに「松重豊が井之頭五郎という役を誰よりも深く愛し、理解している」という動かぬ証拠を視聴者に提示することになったのです。