終末期における自己決定を巡る議論で最も混同されやすいのが、言葉の定義です。報道各社の解説や日本学術会議の提言においても、以下の3つの概念は明確に区別されています。
第1に「積極的安楽死」です。これは耐え難い苦痛を抱える末期の患者に対し、本人の真摯な要求に基づいて医師が致死薬を直接投与し、死に至らしめる行為を指します。オランダ、ベルギー、カナダ、スペインなどで法制度化されていますが、日本では刑法202条(嘱託殺人罪・承諾殺人罪)に抵触します。
第2に「医師による自殺幇助(PAS: Physician-Assisted Suicide)」です。医師が処方した致死薬を、患者自身が自らの手で経口摂取または点滴のストッパーを外すなどの動作によって投与する方法です。医師は直接投与を行わず、準備と立ち会いにとどまる点が積極的安楽死と異なります。スイスやアメリカの一部の州(オレゴン州など)で採用されている手法です。
第3に「消極的安楽死」および「尊厳死」です。回復の見込みがない末期状態において、人工呼吸器の装着や人工水分・栄養補給(胃ろう等)といった生命維持治療を差し控えたり、中止したりすることで自然な死を迎えるプロセスを指します。事前に自らの医療選択を書き残すリビングウィル(事前指示書)の普及とともに、日本国内の臨床現場でも厚生労働省のガイドラインに沿って一定の運用が行われています。