歴史に名を残した有名人の墓碑銘には、一体何が刻まれているのでしょうか。欧米において墓碑銘は英語で「Epitaph(エピタフ)」と呼ばれ、古代ギリシャ語の「墓の上に(epi-taphos)」を語源としています。単なる故人の識別記号ではなく、墓前に立ち止まった見知らぬ旅人へ語りかける独立した文学形式として発展してきました。
有名人の墓石に刻まれた言葉のなかでも、後世の心を揺さぶり続けるのが、自身の人生哲学を力強く肯定した名言の数々です。20世紀を代表するアメリカのエンターテイナー、フランク・シナトラ(1915〜1998)のカリフォルニア州パームスプリングスの墓石には、代表曲のタイトルでもある次のフレーズが刻まれています。
「The Best Is Yet To Come(最高の時はこれからやってくる)」
栄光と挫折、スキャンダルを乗り越えて音楽界の頂点に君臨し続けたシナトラが生涯の幕引きに選んだのは、過去への郷愁ではなく、未知なる死後の世界や後世の人々に向けたポジティブな宣言でした。この言葉は、今も墓前を訪れる多くのファンに前を向く勇気を与え続けています。
一方、ユーモアとウィットで人生を締めくくった偉人の面白い墓碑銘として世界中で愛されているのが、映画監督ビリー・ワイルダー(1906〜2002)の墓碑です。名作『お熱いのがお好き』のラストを飾る映画史屈指の名セリフをもじり、ロサンゼルスの墓石にはこう刻まれています。
「I'm a writer, but then nobody's perfect.(私は脚本家だが、完璧な人間などいない)」
アカデミー賞を幾度も受賞した巨匠が、自らの死の場においてすら観客をクスッと笑わせる演出を仕掛ける――。墓碑銘とは自己顕示の道具ではなく、遺された他者への最後の贈り物であるというエンターテイナーの美学が如実に現れています。