「事故による怪我で除隊した」という説が完全な虚構であるならば、彼女はなぜ安定した公務員の立場を捨ててまで自衛隊を去ったのでしょうか。やす子さんが自衛隊を辞めた本当の理由は、彼女特有の豊かな感受性と人生の選択にありました。
「上官の後ろ姿を見て閃いた」直感による退職決断
自著や各種テレビ特番でやす子さん本人が赤裸々に明かしているエピソードは、極めてユニークかつ印象的です。自衛隊に入隊して約2年が経過し、第1任期の満了が近づいていたある日、駐屯地内を歩いていたやす子さんは、前を歩く上官の後ろ姿をふと見つめた瞬間、頭の中で「あ、自衛隊を辞めよう」という強烈な直感(いわゆる天の声のような感覚)が降りてきたといいます。
その場ですぐに上官へ駆け寄り、「すいません、私、自衛隊を辞めます!」と口から言葉が出てしまったと回顧しています。突然の申し出に周囲の上官や同僚は驚愕し、引き留めも受けましたが、彼女の決意は揺らぎませんでした。衝動的に聞こえるこの決断ですが、背景には「決められたレールの上を歩むのではなく、自分の可能性を外の世界で試してみたい」という、自立心の芽生えがありました。
衣食住を求めて入隊した少女の精神的自立
社会心理学的な観点から見ると、彼女の除隊決断は極めて健全な「精神的自立」のプロセスでした。やす子さんは複雑な家庭環境に育ち、高校時代には児童養護施設で生活した経験を持っています。「高校を卒業しても頼れる実家がなく、住む場所と食べるものを確保するために入隊した」と公言している通り、当時の彼女にとって自衛隊は命綱でありセーフティネットでした。
しかし、2年間の厳しい規律生活と仲間との連帯、自活できるだけの給与と退職金の獲得によって、彼女の内面には「もう誰かに庇護されなくても一人で生きていける」という確固たる自信が育まれました。任期満了を迎えたタイミングでの離職は、過去の逆境を乗り越え、自分の人生を自らの意思で切り拓く準備が整った証だったのです。