全国の海水浴場において、海の家の開設数は過去20年で明確な減少傾向を示しています。関係自治体の統計および海岸組合の報告によると、ピーク時に比べ施設数が半減以下となったエリアも珍しくありません。この急激な減少とビジネスモデル転換の引き金となったのは、2010年代半ばから全国へと波及した海岸利用環境の適正化に向けた自治体条例の制定です。
発端となったのは、神奈川県の逗子海岸や鎌倉市の由比ヶ浜などで社会問題化した「海の家のクラブ化」でした。大音量の重低音による騒音公害、泥酔者によるトラブル、治安や風紀の悪化に対し、地元住民やファミリー層の反発が頂点に達しました。これを受け、逗子市は2014年に全国に先駆けて「逗子海岸海水浴場事業等に関する条例」を施行し、砂浜での飲酒原則禁止、スピーカー等による拡声装置の使用禁止、タトゥーの露出制限という抜本的な規制を断行しました。
この動きは由比ヶ浜をはじめ全国の主要ビーチへ急速に波及し、従来の「若者を集客してアルコールと音楽で稼ぐ」ビジネスモデルは完全に終焉を迎えました。さらに、近年の記録的猛暑に伴う日中の海水浴客減少や台風の上昇傾向による営業リスクの増大も重なり、事業者は薄利多売から「客単価を高め、ファミリー層やインバウンドが安心して滞在できる高付加価値空間」へと舵を切らざるを得なくなったのです。
一般的な海の家の営業時間と開設期間は、例年7月上旬から8月31日(一部9月上旬まで)、営業時間は朝8時〜9時頃から夕方17時〜20時前後(自治体条例により日没〜20時完全閉店が義務付けられている地域が大半)となっており、限られた短期間で確実に利益を確保するためのラグジュアリー化が進んでいます。