ディスク内に直接的な性描写データが存在していた事実が公になると、事態は瞬く間に社会問題へと発展しました。ここからのGTAホットコーヒー事件の経緯は、ゲーム業界の歴史において最も過酷な制裁劇と言えます。
まず動いたのは米国の政界でした。当時上院議員だったヒラリー・クリントン氏をはじめとする政治家たちが「子どもたちに有害なポルノデータを隠蔽して販売した」とロックスターおよび親会社テイクツー・インタラクティブを激しく糾弾。米連邦取引委員会(FTC)に対し、消費者を欺瞞したとして徹底的な調査を要求しました。
これを受け、ESRBは前代未聞の判断を下します。『GTA:SA』のレーティングを、従来の「M(Mature: 17歳以上対象)」から、事実上の成人向けポルノ指定である「AO(Adults Only: 18歳未満販売禁止)」へ強制変更したのです。これが決定打となりました。北米の主要小売チェーンであるウォルマート、ターゲット、ベストバイなどは「AO指定タイトルの取り扱いは行わない」という厳格なポリシーを持っていたため、全米数千店舗の棚から『GTA:SA』が一斉に撤去され、販売停止に追い込まれました。
販売停止による莫大な機会損失に加え、テイクツー・インタラクティブは裁判やFTCとの和解交渉に直面します。株主からは株価急落を招いた経営陣に対する代表訴訟が起こされ、消費者からも「成人向けコンテンツと知らずに購入させられた」として大規模な集団訴訟が提起されました。最終的にテイクツーは2000万ドル(当時のレートで20億円以上)を超える和解金や訴訟費用を支払い、FTCとも再発防止に関する厳しい同意判決を結ぶことになりました。