聖地と呼ばれる日本武道館のステージに彼が立つとき、会場の空気密度は明らかに変わる。巨大な八角形の空間が、まるでニューヨークの老舗ジャズクラブのような親密さと濃密さを帯びていく。生バンドが繰り出すタイトなグルーヴに乗せて、久保田利伸は自在にフェイクを織り交ぜ、観客の心拍数をコントロールしていく。
ハイライトの一つは、不朽の名バラード『Missing』だ。静寂のなか、ピアノの繊細なイントロが響き渡ると、アリーナの至るところから息をのむ気配が伝わる。哀愁を帯びたメロディを紡ぐ歌声は、切なさと包容力を併せ持ち、聴く者の記憶の奥底に触れる。派手な演出に頼らず、声と身体表現だけで数万人を完全に魅了する圧倒的な力量に、会場全体が酔いしれた。