イップスの発症メカニズムを理解する上で外せないのが、「明示的モニタリング理論」と「処理効率化理論」の二つだ。ラグビーやゴルフなど多競技の指導現場でも語られるこの理論、簡単に言えばこういうことである。
本来、熟練した動作というのは脳の基底核や小脳が担う「無意識の自動処理」によって行われる。ところが、完璧主義傾向が強い人は、パフォーマンスが落ちたときに「もっと意識的にコントロールしよう」と、本来なら無意識に任せるべき動作を前頭前野で強制的に制御しようとする。これが動作のぎこちなさ、いわゆる「イップス的な動き」を生む。真面目な人ほど「ちゃんとやらなければ」という意識が強く働き、この悪循環に陥りやすい。
実際に、ある元プロ野球投手は自著でこう語っている。「“丁寧に投げよう”と思った瞬間に、指先の感覚が全部気になり始めた。ボールを離すタイミング、指のかかり、肩の角度。今まで考えたこともなかったことを考え始めたら、もう投げられなくなっていた」。この証言は、イップスの本質が「技術の喪失」ではなく「注意の向け方の異常」であることを端的に示している。