親子であり、師弟であり、同じ板の上に立つライバルでもある松本幸四郎と市川染五郎。2人の間には、舞台芸術の継承者ならではの深い親子共演エピソードが存在します。
代表的な共演作の一つが、歌舞伎屈指の大曲『連獅子』です。親獅子を幸四郎が、仔獅子を染五郎が演じた舞台では、厳しい谷底へ我が子を突き落とし、自力で這い上がってくるのを待つ親獅子の姿が、現実の父子関係と重なり合い、観客の涙を誘いました。
幸四郎は稽古場では一切の妥協を許さず、染五郎に対して誰よりも厳しい指導を行います。しかし一歩舞台を降りれば、お互いの好物を語り合ったり、流行のカルチャーについて言葉を交わしたりする親密な間柄です。染五郎は父について「最も尊敬する役者であり、追いつき、いつかは越えなければならない壁」と公言しており、父・幸四郎もまた息子の目覚ましい成長に目を細めつつ、表現者として刺激を受け合っています。