自動車コミュニティやSNSの掲示板では、ドグミッションに関して「レース用だから頑丈で一生モノ」「ノークラで走れるからクラッチが減らない」といった誤った俗説が散見されます。しかし、現場のメカニックが語る技術的リアリズムは真逆です。
まず、ドグミッションの耐久性と寿命は「レース距離に特化した短命設計」です。衝撃荷重に対する純粋な破断強度は市販ギアを遥かに上回りますが、シンクロメッシュのように摩耗を緩衝する部材が存在しないため、変速のたびにドグの角同士が猛烈な力で衝突し合います。どんなに卓越したシフト操作を行っても、変速の回数に比例してドグの角は摩耗して丸くなっていきます。
角が丸まったドグは、アクセルを踏み込んだ瞬間にギアが勝手に抜ける「ギア抜け」を引き起こします。競技車両であっても走行距離3,000〜5,000km、時間にして数十時間のサーキット走行ごとに分解点検を行い、摩耗したドグリングやギア歯を交換するオーバーホールが前提です。一般的な市販車のように「10万キロ無交換でオイル交換だけしていれば走れる」という世界とは完全に別次元に存在しています。
さらに見落とされがちなのが、莫大なドグミッション導入費用です。有名モータースポーツブランド(Hewland、Quaife、Holinger、Drenthなど)のギアキット本体だけでも150万〜300万円以上。これに専用ケースの精密加工、強化ドライブシャフトの特注、クラッチシステムの変更、そして専門技術を持つレーシングガレージの組み込み工賃を含めると、総額は軽々と250万〜400万円を超過します。さらに定期オーバーホールのたびに1回あたり30万〜60万円のメンテナンス費用が発生し続けます。