大川小の悲劇と対照的に語られるのが、岩手県釜石市における小中学生の避難劇、いわゆる「釜石の奇跡」である。市内小中学校の児童生徒のほぼ全員が無事に高台へ逃げ延びたこの出来事は、単なる偶然の産物ではない。
長年にわたり同市で防災教育を指導してきた片田敏孝氏(東京大学大学院特任教授)は、「想定にとらわれるな」「その状況下において最善を尽くせ」「率先避難者たれ」という避難三原則を徹底して子供たちに伝えていた。巨大地震の発生直後、中学生が小学生の手を引き、ハザードマップの浸水想定区域を超えてさらに高所へと走り続けた行動は、教え込まれた知識ではなく自ら考えて命を守る姿勢そのものだった。
片田氏は、防災・リスクマネジメントの本質は「マニュアルを暗記すること」ではなく、「想定外の事態に直面した瞬間に自律的に動ける人間を育てること」だと喝破する。大川小と釜石市が残した二つの事実は、教育と備えが命に直結するという峻厳な真理を提示している。