「アジャイルを導入した瞬間、社内の既存ルールすべてと衝突した」。そう語るのは、大手製造業でデジタルトランスフォーメーション (DX) 推進を統括するプロジェクト責任者だ。数千人規模の組織で立ち上げられたコネクテッドカー関連の新規事業において、当初は従来の進捗管理をそのまま持ち込み、スプリントごとに膨大な報告書を作成する本末転倒な事態に陥っていたという。
転機となったのは、評価制度と権限委譲の抜本的な見直しだった。経営陣を巻き込み、中間管理職が「指示命令」から「障害排除(インペディメントの除去)」へと役割を再定義したことで、リリースサイクルは従来の半期ごとから2週間へと短縮された。市場のフィードバックを即座に機能改善へ反映できる体制が整い、顧客エンゲージメント率は前年比で約240%の伸びを記録した。
一方、別の金融機関における取材では、現場の準備が整わないままトップダウンで手法だけを強制し、キーマンとなるエンジニアが相次いで離職した苦い失敗談も明かされた。組織変革を成功させる絶対条件は、ツールの導入ではなく、失敗を許容し対話を促す心理的安全性の確立にほかならない。