玉英堂彦九郎を語る上で外せない存在が、名物どら焼きとして知られる「虎家喜(とらやき)」です。一般的な円形のどら焼きとは一線を画すその特徴は、虎の毛並みを彷彿とさせる繊細な焼き斑(まだら)模様にあります。
この美しい虎模様は、鉄板の上に特殊な薄紙(グラシン紙に類似した専用紙)を敷き、その上から生地を流し込んで焼き上げるという熟練職人の手仕事から生まれます。一つひとつ紙に包まれた状態で提供されるため、食べる直前に薄紙をゆっくり剥がす瞬間の芳醇な香ばしさと、しっとりとした手触りが五感を心地よく刺激します。
特筆すべきは、皮の中に包まれた自家製つぶ餡の圧倒的な完成度です。厳選された大粒の小豆を潰しすぎず、豆本来の皮の食感と豊かな風味を限界まで残した炊き上がりは、決して甘すぎず後味が極めて軽やかです。皮の柔らかな弾力と、小豆のホクホクとした粒感が口の中でほどけるコントラストは、長年培われた火入れ技術の賜物といえます。
また、同店には虎家喜と並び、五色の餡を層状に重ねた芸術的な「玉饅頭(たままんじゅう)」など、京菓子の粋を極めた上生菓子も揃っており、訪れるたびに老舗の底力を実感させられます。