産屋敷耀哉という指導者の最も凄まじい本質が露わになったのが、物語のクライマックスへと突入する無限城編におけるお館様の決断です。千年間隠し通してきた本拠地にあえて無惨を誘い込み、自らを囮にして一網打尽にするという、あまりにも冷徹で苛烈な策略でした。
無惨との対面時、耀哉は穏やかな微笑みを絶やさぬまま言葉を交わし、相手が油断した刹那、屋敷に仕掛けた大量の火薬を炸裂させます。このお館様の最期と自爆の真相において、読者および無惨自身に最大の戦慄を与えたのは、彼が妻である産屋敷あまね、そして幼い二人の娘(にちか、ひなき)を巻き込んで自爆したという事実です。
無惨は爆発の瞬間、耀哉の纏う気配に「一筋の殺気も躊躇もなかった」ことに驚愕します。通常、どれほど覚悟を決めた人間であっても、妻子を道連れにする瞬間には微かな迷いや精神の揺らぎが生じるはずです。しかし耀哉の精神には一切の濁りがありませんでした。自らの命はおろか、愛する家族の命すら「無惨を滅ぼすための駒」として完璧に統御してみせたその精神構造は、無惨をして「こいつは完全に狂っている」と震え上がらせるほどの、聖性と狂気が紙一重となった極限の執念でした。