本作を語る上で避けて通れないのが、極めて詳細かつ凄惨を極める猟奇・スプラッター描写とネクロフィリア(死体愛好)の描写です。犠牲者への凌辱や解体プロセスの執拗な描写は、数あるミステリ小説の中でも突出して過激であり、人によっては強い嫌悪感を抱く要因となっています。
しかし、この徹底したグロテスク描写は、単なる悪趣味なショック演出ではありません。そこには2つの明確な機能が存在します。
一つは、読者の批判的思考力を奪う「心理的目眩まし」としての効果です。あまりに凄惨な犯行手口と歪んだ心理描写を突きつけられることで、読者の意識は「犯行の異常性」に強く囚われ、文章の隙間に仕掛けられた叙述トリックの違和感に気づく余裕を失います。
もう一つは、キルケゴールの著作『死にいたる病』を引いたタイトルの通り、救いようのない魂の絶望と狂気をリアリズムとして描き切るための必然性です。精神の病理を極限まで突き詰めたからこそ、あの戦慄のラストシーンが読者の胸を抉るのです。