福田康夫氏といえば、官房長官時代から「カミソリ」と称された後藤田正晴氏を彷彿とさせる事務処理能力の高さと、感情を表に出さない淡々とした受け答えで知られていました。その福田氏がなぜ、最後の最後に感情を爆発させたのでしょうか。
最大の引き金となったのは、記者から投げかけられた「人事(ひとごと)のように聞こえる」というフレーズでした。福田政権下の2007年から2008年は、参議院で野党(民主党)が過半数を握る「ねじれ国会」の渦中にあり、テロ特措法延長問題やガソリン税の暫定税率維持を巡って激しい与野党攻防が続いていました。政策を進めるために野党党首会談を重ね、連立工作を模索するなど、福田首相なりにギリギリの調整を続けていた自負がありました。
そうした背景の中で、自らの退陣という重大な決断を下した会見の場で「自分の政治を他人事のように見ているのではないか」と問われたことは、政治家としての矜持や誠意を根本から否定されたと感じるに十分な侮辱だったといえます。「客観的に自分を見ることはできるんです」という前置きに凝縮されていたのは、冷静に大局を見極めて身を引く決断をした自分に対する、安易な感情論への苛立ちでした。