「アフリカ最強の視覚」を誇ってきたマサイ族ですが、現地を取り巻く社会インフラの急変に伴い、その身体性にも大きな変化が起きています。ケニアではモバイル送金サービス「M-PESA(エムペサ)」が社会基盤として定着し、ソーラーパネルと安価な中国製スマートフォンの普及によって、サバンナの奥地にある伝統的集落(ボマ)でも日常的に通信端末が使われています。
放牧の合間にスマホで家畜の取引価格を確認し、SNSや動画プラットフォームをチェックする光景はすでに日常となりました。その結果、現地を訪れる医療支援チームや眼科医の調査において、若年層を中心にマサイ族視力低下の理由としてスクリーン凝視による視力低下や屈折異常が多数報告されています。
暗い土壁の家屋内で高輝度の小型液晶画面を長時間見つめる行為は、サバンナの強烈な太陽光環境とは正反対の眼球ストレスを生み出します。現代生活による視力変化の波は、どれほど優れた遺伝的ポテンシャルや身体適応を持つ部族であっても、至近距離のデジタルデバイスを使い始めれば同様に近視化が進むという厳然たる医学的現実を示しています。