京都でお菓子を語る上で外せない名店が、安政3年(1856年)創業の「阿闍梨餅本舗 満月」です。江戸時代末期、出町橋のたもとで看板を掲げて以来、幕末の動乱から明治、大正、昭和、平成、そして令和へと激動の時代を乗り越えてきました。
この老舗が誇る銘菓の歴史と由来には、比叡山延暦寺での厳しい修行が深く刻まれています。看板商品である阿闍梨餅は、二代目当主が比叡山で千日回峰行を行う阿闍梨(高僧)がかぶる「網代笠(あじろがさ)」の形を模して考案しました。過酷な修行中に飢えをしのぐために食べられた餅の製法にヒントを得て、丹波大納言小豆の粒餡を秘伝の餅生地で包み込んで焼き上げたのが始まりです。
満月の菓子作りにおける最大の哲学は、「1種類の餡で1種類の菓子しか作らない」という頑固なまでのこだわりです。一般的な和菓子店では同一の餡を複数の生菓子に使い回すことも珍しくありませんが、満月では菓子ごとに最適な小豆の選定から糖度、炊き上げの硬さまで徹底して作り分けています。この妥協なき姿勢こそが、160年以上にわたって京都の地元客から観光客までを唸らせ続ける理由です。