現地で待機しているファンを最も落胆させるのが「訓練中止」の判断です。地上から見て「晴れているのに飛ばないのはなぜか」と疑問に感じる場面が多々ありますが、これには航空自衛隊が定める極めて厳格な安全マージンが関係しています。
ブルーインパルスは、パイロットが目視で自機の姿勢と他機との相対距離を把握しながら飛行する「有視界飛行方式(VFR)」を採用しています。機速800km/h近く、機体間隔がわずか数十センチから1メートル前後に迫るフォーメーション飛行において、気象の悪化は即座に大事故につながるリスクを孕んでいます。
訓練中止または内容変更となる主な要因は以下の3点に集約されます。
1. 雲底高度(シーリング)の不足
上空に薄雲が広がっているだけでも、垂直に急上昇する「バーティカルクライムロール」などの大技は実施できません。機体が雲に入った瞬間に視覚情報が失われ、空間識失調(バーティゴ)に陥る危険があるためです。第4区分を実施するための最低雲底高度である約3,000ft(約900m)を雲が下回ると、基地上空訓練そのものが断念されます。
2. 視程(地上および上空の見通し)の悪化
海沿いに位置する松島基地特有の現象として、太平洋からの湿った海風による「移流霧」や局地的な視程低下が挙げられます。地上では晴れ間が見えていても、上空の水平視程が5km〜8kmを割り込むと、安全確保のため洋上訓練へ切り替えるかフライト自体がキャンセルされます。
3. 突風・乱気流およびバードストライクのリスク
地表付近の強風や上空の激しいウインドシア(風向・風速の急変)は、編隊のシンクロ率を著しく損なうだけでなく、編隊同士の接触リスクを高めます。また、松島基地周辺の野鳥の群れが滑走路進入経路上に多数確認された場合も、バードストライク回避のために開始時刻の遅延や中止が下されます。