当時のメイキングドキュメンタリーや関係者の証言によると、『もののけ姫』のアフレコ現場は極度の緊張感に包まれていました。石田ゆり子さんは後年のテレビ特番やインタビューにおいて、この収録を「役者人生の中で最も打ちのめされ、魂を削られた経験の一つ」として振り返っています。
特にサン役の収録では、宮崎監督から妥協のない徹底的なディレクションが下されました。宮崎監督が求めたのは、単なるアニメ的な可愛らしさや叫び声ではなく、「人間を激しく憎み、山犬の牙を剥き出しにして威嚇する獣の獰猛さ」と「神の娘としての高貴な純粋さ」の共存でした。
「もっと泥臭く!」「綺麗に言おうとしないで、喉が張り裂けるように叫んでください!」——ブース越しに飛ぶ宮崎監督の怒号にも似た熱血指導に対し、石田さんは何度もテイクを重ねました。一方でカヤ役の収録では、アシタカを見送る切なさとエミシの乙女としての覚悟を静謐な声で表現することが求められました。静と動、愛と怒りという両極端な演技を短期間で演じ分けた現場での葛藤こそが、今なお色褪せない名演を生み出した原動力でした。